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ぞうブロ

転職、エンジニアの叫び、マラソン、音楽を中心に。

恥の多い設計者人生を送ってきました。

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私は、その社畜の写真を三葉、見たことがある。

 

一葉は、その社畜の、前職時代、とでも言うべきであろうか、28歳前後かと推定される頃の写真であって、その社畜が大勢の社員に取り囲まれ、(それは、その会社の幹部たち、先輩たち、ラインのスタッフたち、それから、バングラデシュからの出稼ぎ労働者かと想像される)自動車部品工場の塗装設備のほとりに、ブルーの作業着を着て立ち、ヘルメットを30度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である。醜く?

 

けれども、鈍い人たち(つまり、出世などに関心を持たぬ人たち)は、面白くも何ともないような顔をして、「優秀な若手社員ですね」といい加減なお世辞を言っても、まんざら空お世辞に聞こえないくらいの、謂わば通俗の「若手のホープ」みたいな影も、その社畜の笑顔にないわけではないのだが、しかし、いささかでも、出世についての訓練を経てきた人なら、ひとめ見てすぐ、「なんて、ダメな社員だ」と頗る不快そうに呟き、毛虫でも払いのけるときのような手つきで、その写真を放り投げるかもしれない。

 

まったく、その社畜の笑顔は、よく見れば見るほど、何とも知れず、イヤな薄気味悪いものが感ぜられてくる。どだい、それは、笑顔ではない。この社畜は、少しも笑っていないのだ。その証拠には、この社畜は、不良品を固く握って立っている。設計者は、不良品を固く握りながら笑えるものでは無いのである。豚だ。豚の笑顔だ。ただ、腹に醜い肉を寄せているだけなのである。「ダメダメ豚ちゃん」とでも言いたくなるくらいの、まことに奇妙な、そうして、どこかけがらわしく、へんにひとをムカムカさせる表情の写真であった。私はこれまで、こんな不思議な表情の社畜を見た事が、いちども無かった。

 

第二葉の写真の顔は、これはまた、びっくりするくらいひどく変貌していた。スーツ姿である。転職での二次面接の写真か、最終面接の写真か、はっきりしないけれども、とにかく、おそろしくデキそうな社畜である。しかし、これもまた、不思議にも、デキる人間の感じはしなかった。スーツを着て、胸のポケットから白い職務経歴書を覗かせ、面接室の椅子に腰かけて足を組み、そうして、やはり、笑っている。今度の笑顔は、ダメダメな豚の笑いでなく、かなり巧みな微笑になってはいるが、しかし、デキる男の笑いと、どこやら違う。知の重さ、とでも言おうか、輝かしい実績、とでも言おうか、そのような充実感は少しも無く、それこそ、鳥のようではなく、無職のように軽く、ただ白紙一枚、そうして、笑っている。つまり、一から十まで造り物の感じなのである。付け焼刃と言っても足りない。開き直りと言っても足りない。ヤケクソと言っても足りない。無能と言っても、もちろん足りない。しかも、よく見てみると、やはりこのデキそうな社畜にも、どこか詐欺じみた気味悪いものが感ぜられてくる。私はこれまで、こんな不思議な雰囲気の社畜の中年を見た事が、いちども無かった。

 

もう一葉の写真は、最も奇怪なものである。まるでもう、としの頃が分からない。頭はいくぶん白髪のようである。それが、ひどく暗い部屋(窓が締め切られ、机に設計要領書が散乱しているのが、その写真にはっきり写っている)の片隅で、CADの画面を見つめ、今度は笑っていない。どんな表情もない。謂わば、坐ってPCの画面を見つめながら、自然に死んでいるような、まことにいまわしい、不吉なにおいのする写真であった。

奇怪なのは、それだけではない。その写真には、わりに顔が大きく写っていたので、私は、つくづくその顔の構造を調べることが出来たのであるが、顔は平凡、能力も平凡、設計も平凡、作図も平凡、ああ、この社畜には表情がないばかりか、能力さえない。特徴がないのだ。たとえば、私が彼の図面を見て、目をつぶる。既に私はこの図面を忘れている。部屋の閉め切られた窓や、設計要領書は思い出すことが出来るけれども、その社畜の図面の印象は、すっと霧消して、どうしても、何としても思い出せない。モノにならない図面である。儲けにも何にもならない図面である。眼を開く。あ、こんな部品だったのか、思い出した、というような喜びさえない。極端な言い方をすれば、眼を開いてその写真を再び見ても、思い出せない。そうして、ただもう不愉快、イライラして、つい目を背けたくなる。

所謂「死相」というものにだって、もっと何か表情なり印象なりがあるものだろうに、豚のからだに鳩の脳味噌でもくっつけたなら、こんな感じの社畜になるであろうか。とにかく、どこという事なく、見る者をして、ぞっとさせ、嫌な気持ちにさせるのだ。私はこれまで、こんな不思議な社畜の顔を見た事が、やはり、いちども無かった。 

 

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恥の多い設計者人生を送ってきました。

 

(中略)

設計者、失格。もはや、自分は、完全に、設計者で無くなりました。

 

今は自分には、設変も量産もありません。ただ、一さいは過ぎて行きます。

 

自分はことし、38になります。白髪と腹の肉がめっきり増えたので、たいていの人から白豚と呼ばれます。

 

~完~

 

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徹底解明!【人間失格】「遺書」と言われる太宰治の捨て身の問題作 | 主婦まっしぐら

太宰治の人間失格みたいな、人を惹きつける麻薬みたいな文章を書きたい。

設計者はまだ辞めてません。もう少しだけがんばります!

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