ページ コンテンツ

ぞうブロ

好きなことまとめ、妄想

量産1台目が産まれたけど、戦いは終わらない。よーそこのわけーの(若くない)。

スポンサードリンク

3月末。桜と花粉と埃が舞う筑波のど田舎の工場で、ようやく担当してたマシンが産声をあげた。無事、量産1台目が産まれた(ラインオフした)のだ。

母体はもはやボロボロだが、産まれたばかりの我が子はなんとか健康だ。週末。花の都・大東京のオシャレな和民で一人、ビールを飲みながら、私は感慨にふけった。

訳の分からないまま設計主担当に祭り上げられ、次から次へと発生する難題。全員が全打席ホームランを打ち続けないと成り立たない開発日程。その中でも何とかほとんどの問題を倒してプレ量産にまで持ち込んだが、残るラスボスを解決できず、量産を遅延させてしまうに至った。

 

本来味方であるはずの人間からも、温かい罵詈雑言や嫌味を投げつけられ、休日と精神的余裕がなくなった代わりに、10円ハゲができた。

 
時間がない中、何度テストをしても強度が足りず、合格にならない。
補強を入れるスペースもコストも無く、大幅変更する時間もない。答えがわからなかった時。夜遅く、私は耐えきれず、上司に告げた。
「もうこれ以上、私には無理です。主担当を、降ろさせてください」
 
普段はインテリヤクザの上司が、リアルなヤクザに変貌した。
「バカ野郎!簡単にできないなんて言うな!俺たち設計は、どんなにボロカスに怒られても、待ってくれているお客さんがいる限り、最後まで作り上げて、世に出さないといけないんだ!」
その言葉に胸が熱くなった。少しの感動。大半は怒りだった。そう言うんなら、アイデアをくれ。さっさと俺の図面にオッケー出してくれ。そして助けてくれ。
 
結局その課題は、最終手段として、金属に特殊な熱処理をして強度アップすることで、解決できた。はずだった。
 
同時に、本来戦う相手の人たちに、励まされる毎日だった。工場の人たち、調達、製造、検査、協力会社、営業、販社。 
量産間近で新たな問題が起こり、みんな頭を抱えていたとき、立会いに来てた協力会社の営業のエライ人が言ってくれた。
 
「zohbeyさん。あなたが大変な目にあってるってのは、協力会社の私らですら聞いてますよ。本当大変ですよね。
でも。誰がzohbeyさんに何を言おうが、周りはみんなzohbeyさんの頑張りを分かってますからね。少なくとも私は分かってますよ。だからあと少し、一緒に頑張りましょう。絶対この機械を世に出しましょう!」
 
普段は毒舌の、脂ぎって禿げ散らかしたおっさんが、つぶらな瞳で語った言葉。私は嬉しくて、思わず涙が出そうになった。抱かれたいとすら思った。のは嘘だ。
 
量産を遅らせたせいで、それを挽回するため、工場はキャパギリギリの大変な生産計画を立ててくれた。それでも、誰も文句なんて言わない。みんな、笑顔で冗談を言いながら、励ましてくれた。
 
そうだ。待ってくれてる人たち、応援してくれる人たちがいるんだ。俺は、なによりこの人たちのために、頑張らないといけないんだ。せっかく応援してくれる人たちを、裏切るわけにはいかないんだ。
 
生産ラインにへばりつき、評論家ばりに文句を垂れて先に帰る本来の「仲間」には目もくれず、鬼フォロー電話をかけまくってくる上司にもめげず、奮闘した。そして、ようやく産まれた。
 
 
最後の幹部報告。テレビ会議画面の向こうには、お偉いさんたちが鎮座している。まるで裁判だ。量産を遅らせた責任者として、私はこれから詰問され、裁かれる。しかしそれでも、私は開き直っていた。
 
文句があるなら、お前らやってみな。ホームラン日程を設定して俺たちを苦しめたのはどこのどいつだ。どれだけ大変だったと思ってる?代わりがいるなら今すぐここに連れてこい。他の誰にもできないはずだ。
 
それくらい自信満々に報告した。なぜ分からなかったんだ。ちゃんと検討してたのか。特殊な熱処理?それ本当に大丈夫なんだろうな。色々突っ込まれたが、なんとか量産GOをかけてくれた。
 
関係ない大多数の人にとっては、なんかよくわからないマニアックな機械だ。興味など持てないだろう。それに、フラッグシップカーでもない、地味な派生機種だ。
それでも、初めて設計主担当として、マシン全体の開発リーダーとなり、量産までこぎつけた。二度とやりたくないが、感慨はひとしおだ。
 
これでようやく、終わった。長い戦いだった。俺にも出世の道が拓けた。可愛い工場のあの娘も、振り向いてくれるだろう。
 
しかし、ラインオフが終わり、組みあがってるはずの機械を囲んでた集団から飛んできたのは、甘い告白ではなかった。
「おい!この部品、組みにくいぞ!」
「おい!この部品、コストがかかりすぎるぞ!」
「おい!この部品、あの部品と似ててややこしいぞ!統一しろ!」
 
そう、量産1台目が産まれても、まだまだ課題は山積みなのだ。なんとかかんとか、産まれたに過ぎない。
余韻に浸る時間なんて一瞬だ。すぐに設計変更をかけて、調達製造と相談して対応を決めないと。
 
 
そして無事ラインオフが終わり、冒頭の東京での束の間の息抜きを楽しみ、帰ってきた日。調達・検査から、衝撃の電話がかかってきた。
あの特殊な熱処理をした部品、メーカーが今になって作れないと言ってきました。
なんでも作るのが難しくて、不良率が高すぎます。このままだとすぐ部品がショートし生産が止まります!何とかしてください!」
 
なにー?試作のときは「ちょっと難しいけどバッチリですよ任せてください!」って言ってたじゃないか!
しかし設計者に、そんな言い訳は通用しない。
そんな特殊なことやってるからダメなんだ!さっさと熱処理のいらない別の構造を作って最短で設計変更をかけろ!」
 
どいつもこいつも、簡単に言ってくれる。
私の地獄は、まだまだ終わらないようだ。
 
「誰か助けて!」「文句ばかり言ってないで、一緒に考えてくれ!」「じじい寝てないで手伝え!」
今までの私なら、そう言っていただろう。
しかし、ようやく分かった。
人なんてアテにしちゃいけない。誰も火中の栗なんて拾ってくれない。まずは自分が必死にやるしかないのだ。
 
夜中の帰り道。ふいに脳内で、「よーそこのわけーの!俺の言うことを聞いてくれーよー 」という歌声が響いて来た。


竹原ピストル /よー、そこの若いの (Short Ver.)

 
私はもはや若くないし、1UPできたのかも分からない。でも1つ、山を越えられたのは確かだ。もう二度とやりたくない。あといくつ山を越えないといけないんだ。でも今まで乗り越えてこられたんだから、もう一つくらい、なんとかなるよな。そう信じて、ボロボロの母体に鞭打ち、なんとか仕上げたいと思う。誰か助けてください。

スポンサードリンク